模倣犯(下)

2017/02/16 07:03
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案の定下巻とはほぼ片時も離れられなかった。読み終えていろんなことを考えたしいろんな感想が頭に浮かんでいるのだが、まず思うのはこの本が20年以上も前にすでに書かれていたという事実がすごい。

上巻の感想のときに「樋口めぐみのこと忘れてた」と書いちゃってたけど、この人はめちゃめちゃ重要なファクターだった、ごめん。そう、この人だけはキャラクターではなくてファクターだと思う。
あれだけ樋口めぐみに嫌悪していたのに、全く同じ行動をしていた高井由美子に、真一君が放った暴言には少々すかっと感すらあった。もちろん読者側としては樋口めぐみと高井由美子は違うということはわかるのだが、それはそれとして全く同じことをしているという痛々しさも同時にあって、この気持をどう表現していいものか…。とはいえ私も高井由美子だったら全く同じ行動を取るだろう。そして結末も同じに違いないのだ。

こういう状態はあらゆる場面で起きた。
読者である私はピースが悪の権化であると分かっていながら、劇中のテレビの前の私だったら信じてただろうなとか。
誰だってにこやかに会話している眼の前の人が13人も人を殺してきた人間だなんて想像もしない。客観的に「騙されるなよ」というのは簡単だけど、いざ自分の身になると考えもしない。むしろそれが普通だと思う。

なんというか、事件のほころびというのは絶対出て来るわけで。
よく人は一人では生きていけないと言われるのもそうだと思うし(店で買い物したり街を歩いているだけでも目撃証言は出るわけで)、警察だって独自の操作方法はたくさんあるわけで他人を甘く見ているとどんどんと物証が出たり、大衆だって気づく人は気付くわけで嘘は分かる人には分かるとか、古い言い方をするとお天道さまはみてるんだぞということはもちろんなのだが、それ以上にピースだってやはり人間だったのだということを強く思った。

これは以前読んだときには思わなかった感想で、昔はやはり事件の全容を知りたい気持ちが強くてピースが冷血な怪物に見えていたんだけど、今回多少おとなになってから読むと、ピースが周囲から脚光を浴びて浮かれて今まであった冷静さを欠いていること、人に取り囲まれすぎて一人ひとりの重要性や感情を見失いつつあること、あまりにも事がうまく運びすぎて周囲をどんどん舐めてかかっていることが実によく分かる。
そうしてそこから足がつく。

本当はキャラクターひとりひとりについて1日分のスペースを使って語っていきたいところだが、さすがにみんな読む気がないだろうから避ける(※私が書く気はある)

「面白かった」というチープな言葉では語り尽くせない、いろんなことに気付かされ考えさせられた。事件の被害者・加害者という立場だけではなく生きていくことそのものについても大切なことがたくさんかかれている。
20年の時を経ても色あせたところが全くない、むしろ今も継続して読むべき作品。もっと早く手元に置いていればよかった、そういう後悔を持たせられる。



宮部みゆき一人いるせいで"小説家"という職業がぐんと高みに上げられて通常では手の届かない地位まで上り詰めてしまった。

これだけの量・質量を一人の人間が想像し組み立てて書いたという事そのものがもう賛美である。模倣犯は「10人の作家が手分けして書いたのをまとめたんですよ」と言われたほうがすんなり納得できる。
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そのくらい各々のキャラクターの性格・個性・背景・過去・立場・感情というものが色濃く出て、組み合わさっていた。余すところは一つもない素晴らしい伏線回収。
その一方で不必要な描写はきっちり省く。上手に読者に想像させる。高井由美子の痛々しい言い分など文字にしてじっくり読みたくないと思っていた当たりはすっぱり省かれて、それなのに何が起きたか察することができる不思議。

クライマックスの持っていきかたもすごいの。
これは他の作品でもそうだけど、ページが残り少なくなってくのに今まだここの団塊で大丈夫!?って読んでるこっちが心配になる(笑)
でも当然きちんと綺麗に終わる。直前にガッツリ見せる。


世の中にはある種の才能を持ちながら運や事情からその職業に付けない人というのは多くいると思う。
しかし宮部みゆきは小説家の才能を持って小説家という職業についた人だと思う。とかいうとご本人にとっては失礼になるだろうか。もちろんたくさん勉強と取材をされてることは分かっておりますとも。


久々に体力・精神力を削られるほどの読書をした。
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しばらくは重たい本は避ける(笑)



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